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95交通権レポート第7回

『佐藤きみよさんの報告会』

 去る6月10日(土)、交通権を考える連絡協議会の95年度総会の後、開かれた佐藤きみよさんの大阪旅行の報告の要約です。



司会:今日は佐藤きみよさんをお招きして、『ベンチレーターをつけての空の
   旅』の報告会を行ないます。
   簡単に佐藤きみよさんの紹介をさせていただきます。

 佐藤きみよさんは1962年の札幌生まれ、脊髄性筋萎縮症の障害を持っています。1973年道立肢体不自由児総合療育センターに入所し1975年よりベンチレーターを使用。1990年春より市内のアパートで自立生活を始めました。公的ヘルパーの派遣、有料介護者、ボランティア、友人らのケアで24時間のスケジュールを組みながら地域での生活をエンジョイしています。
 1990年12月「ベンチレーター使用者ネットワーク」を作り、通信「アナザ・ボイス」の発行を続けています。


 今回は5月11日〜5月17日まで、大阪で開かれたベンチレーター使用者及びその家族の全国集会に参加する為に飛行機を利用した旅のお話しをお聞きしたいと思います。でどうぞ宜しくお願いします。



 えー、皆さんこんにちわ、佐藤きみよです。今日は宜しくお願いします。
 私は現在札幌市内の白石区という所でアパートを借りて自立生活をしています。ちょうど5年目を迎えたところです。人工呼吸器をつけた人達のネットワークづくりをしたり、様々な障害を持っていても地域の中で生きていこうよ、、、。という様な活動をしています。
 ベンチレーターをつけてからもう20年になります。12歳の時につけました。10年位前まではベンチレーターをつけた人は一生病院で過ごさなければならないというのが現実でしたけど、今、私は車椅子の下に積んだ小さな家庭用のポータブル人工呼吸器を使っています。これが普及してから、ここ4、5年前くらいから少しずつですが自立生活をしたり、在宅生活をする人が増えてきました。
 人工呼吸器というと、皆さんどんなイメージを持つでしょうか、、。今までは生命維持装置といってICU(集中治療室)とか本当に重症の患者が使ってきたわけですが、今は私のように日常生活で車椅子や松葉杖・歩行器の様な感覚で使うようになりました。私はベンチレーターは日常生活用具なんだと、あちこちでお話しさせていただいています。
 今回ベンチレーターをつけたままで、生まれて初めて飛行機に乗り、大阪迄行ってまいりました。
 5月11日から17日まで、6日間の旅だったんですが、その時の様子を少しお話しさせていただきたいと思います。

 この度の大阪行きは、人工呼吸器をつけた人達の集会「“輝きながら今を生きるために”地域で人工呼吸器をつけて生きる」という全国集会に参加することが第1の目的で、向こうにいる人工呼吸器をつけた人達と交流を深めてくることが最大の目的でした。
 半年くらい前に、大阪に行けたらいいね、と話していて、実際に大阪行きを決心してから、すごく沢山の問題をクリアしなければいけませんでした。その問題を少しお話ししたいと思います。
 まず、私は座位がとれません。こうして寝たままで寝台式車椅子で外出しています。座位がとれないために、飛行機に乗る時も寝たままですから、座席を9〜10席位倒して、その上に航空会社が用意してくれた簡易ベッドを載せて、そこに寝る訳ですが、そうすると料金が一席分は障害者割引で25%割り引きになりますが、二席分以上は50%割引にしかならず、今までは一人分で30万円近くになるのです。
 尼崎市に住む、同じく人工呼吸器をつけて在宅生活をしている平本 歩ちゃんという、現在9歳になる女の子で、普通の小学校に通っている子供がいます。彼女が3年前に人工呼吸器をつけたままで北海道旅行に来てくれたんですが、その時に初めて人工呼吸器をつけて飛行機に乗るということで、大きな問題が起きました。
 人工呼吸器を機内で使うと電波妨害が起きるのでは、とか、色々な問題をクリアして北海道へ来てくれました。その時やはり30万円位の料金がかかっていて、随分高かったね、などと話しをしていました。
 昨年もベンチレーターをつけて北海道へ来た人がいました。少しずつですがベンチレーターをつけて旅行する人が出てきたのですが、やはり余りにも高い料金がネックでした。
 今回、私の大阪行きにも30万円近くかかるということでした。座位のとれない障害者が飛行機に乗るには、これだけ高い料金がかかるということを社会に広くアピール出来たらいいなと思いました。それで私の友人達5、6人が「佐藤きみよの大阪行きを実現する会」を作ってくれまして、チラシを作ったり、カンパを募ってくれたり、マスコミの方に取材をしてもらたり、あちこちに呼び掛けをしました。
 このような問題があるんだよということを色々な人に知って貰う事はものすごく大事な事だと思っていましたから、チラシを沢山刷ってあちこち撒いたり、半年間色々な活動をして、呼び掛けました。その時、このような問題を障害を持った当事者と一緒に運動出来たらいいねと思っていましたので、沢山の方に後援、協賛していただきました。この中で「交通権」の木下さんにこの話しをしましたところ、宮下さんがTYさんに話していただき、国会で取り上げていただきました。今回座位のとれない人に“ストレッチャー料金”という制度が新設され、機種によってもバラバラだった料金も統一されました。
 その料金の内容というのは、一席分は25%の障害者割引、プラス大人料金を二席分ということで、合計約15万円位で大阪に行けることになりました。従来の料金に比べれば随分安くなりましたが、大阪へ行くだけで一人約15万円というのはやはりまだまだ高いなぁというのが実感です。
 次に、寝台式の車椅子に乗っているために、列車とかバス、タクシーなどを簡単に利用出来ないので、向こうへ行って移動する時にバスやタクシーを利用していては、時間が掛かりすぎて肝心の活動が何も出来なくると思い、友人からリフト付きのワゴン車を借りて、出発の3日前にフェリーで大阪へ送りました。この料金も8万円近く掛かりました。すごく高かった。それともう一つ、ベッドの問題です。私達、重い障害を持つ人との話しで「旅行に行ってもホテルのベッドはリクライニングになっていないし、ふかふかのマットで良く眠れないから、疲れて帰ってくるだけだよね」という話しをよくします。普段使っている医療用のベッドとマットでなければ、体に負担が掛かりすぎてしまうものですから、どうしても旅行がおっくうになってしまう。それをどうやってクリアしようかと考えた結果、同じ機種のベッドレンタルで借りて、それをホテルに入れてもらうことにしました。ホテルは大阪KKRホテルといいまして、車椅子障害者用の部屋を借りたので比較的広くて使い易かったのですが、事前にホテルに連絡して事情を話しましたら、快く医療用ベッドを入れる事を了解してくれました。ただ、マットだけは普段私が使っている医療用の大きなマットを2枚、手荷物で飛行機に持ち込みました。
 この様な訳で、荷物がすごく多くなったりして、準備が大変だったのですが、障害を持っていると向こうでも必要になる物が沢山あるんです。例えばテーブル、イス、大きな車椅子とベッドとか、日常使っているものをそのまま持って行けたらどんなに良いかと思うのですけど、、、。
 これからは向こうでレンタル出来る物はレンタルで調達して使うというのも、私達障害を持つ者の新しい旅のスタイルになるのではないかと思いました。
 3日間そのベッドをレンタルして、約1万8千円位でした。そんなに高くはないと思いますが、何かにつけてもお金が掛かるという感じがしました。ただ、私の体に合ったベッドを使えたことで余り疲れずに良かったなと今は思っています。
 それから、飛行機のことですが、ベンチレーターは電気で動きます。普段は家庭用電源、外出にはバッテリーを使います。バッテリーで8〜10時間くらい使えますが機内ではバッテリーは危険物ということで持ち込むことが出来ないのです。これは電動車椅子も同じだと思いますが、それで今までは乾式バッテリーという物を別に用意しなければなりませんでした。この購入には当然補助などはなく、全額自己負担で、経済的に大変でした。飛行機に乗るために個人が乾式バッテリーを用意しなければならないというのはおかしいのではないか?と、航空会社に交渉しました。今回初めて機内の電源を使わせてもらえることになりました。これは私達にとって大きな前進だと思います。それでも万一の事を考えて乾式バッテリーを持ち込むようにいわれ、結局自分で購入しました。
 今、ここにありますが簡単な救急用の手動式呼吸器があります、一時的には十分これで呼吸が確保できるので、これからは乾式バッテリーを持ち込まなくてもよいように交渉していきたいと思います。
 次に診断書の事です。航空会社から一連の交渉の中で診断書を提出して下さいと言われまして「えっ」と思いました。内容は病名とか生まれ、生年月日とかまったくプライベートな事なんです。なぜ飛行機に乗るためにプライバシーを公表しなければいけないのか疑問に思いました。
 この診断書を必要とする人というのは、例えば妊婦さんとか病院を転院する方とかが対象なんです。でもベンチレーター使用者というのは病気ではなく、障害が固定していますから、機内で何か危険があるとか、急に容体が悪くなるということは考えられないという事を話したのですけど、やはり診断書を提出してほしいの一点張りだったのです。車椅子の方はどうなのか後でお聞きしたいと思いますが、障害者の診断書が本当に必要なのかどうか、見直していく必要があるのではないかと思います。
 診断書をもらいに病院へ行ったら、お医者さんも飛行機に乗るのに診断書が要るの?と、びっくりされて、本当に腑に落ちないなぁと感じました。それにたった一枚の診断書を書いてもらうのに3千円もかかり、本当にお金が掛かると思いました。このような事もまたどこかで考えて行きたいと思います。
 今回は機内の電源を使えた事は大変良かったのですが、私の使った簡易ベッドは、座席を5〜6席分も使ったでしょうか。そのベッドに私の今使っているマットを敷いて寝たんですけど、そのベッドにカーテンが付いていたんです。私は機内の雰囲気を楽しむためにもカーテンをはずして欲しいと頼んだのですが、すぐには出来ないらしくて、駄目でした。
 一般的に簡易ベッドを利用するのは怪我をした人とか、転院のための病人の方なので、カーテンを付けてあるのでしょうけど、本人の希望を聞いて欲しいと思いました。
 揺れも少なく、快適な空の旅でしたが、これからはベンチレーター使用者だけでなく、色々な障害者の方々にどんどんストレッチャー席を利用してほしいなぁと思います。例えば脊損の方などや、長い時間座位がとれない人や、海外旅行などで長時間飛行機に乗る時など、今まで諦めていた人達も寝台式の座席を利用する事でどんなに楽な旅行が出来ることか。利用する人が増えることで料金がもっと安くなればいいなぁと思います。
 最終的に一人分の料金で利用できる様になるまで交渉して行きたいと思います。
 私達は今まで、障害のない人達の乗り物になんとか自分の体を合わせようとして、障害を重くしてしまったり、すごく疲れて帰ってきたりしてきました。自分達が本当に楽な方法で外出したり旅行したりして、自分の世界を広げることが出来るように考えて行きたいと思います。
 私の寝台式車椅子は普通の車椅子に比べてすごく大きいので、車椅子マークの付いたエレベーターやスロープ、トイレなどが使えないことがたまにあるんです。あるいは狭くて介助の人がすごく苦労したりするんです。
 先日札幌市が「福祉計画」というのを打ち出し、車椅子の乗れるリフト付き福祉バスの導入というのがあったと思いますが、是非ここで普通の車椅子だけでなく、寝台式の車椅子もあるんだという事も考えて欲しいと思います。私が大阪行きの準備をしている時、スクーター型車椅子を使っている女性から電話がありました。寝台式車椅子と同じ様にスクーター型車椅子も一般的な車椅子より大きくて、とっても困る事があるという事で、寝台式車椅子の話しをする時には是非スクーター型車椅子についても話して欲しいと頼まれました。それで車椅子というのは座位のとれる人の車椅子だけではないんだ、スクーター型や寝台式もあるんだという事を考えてほしいという話しをすることにしています。  それで、リフト付きバスが走る時は寝台式やスクーター型の車椅子も乗れるバスが導入される事をすごく期待しています。
 今回大阪に行ってみて、また強く感じてきた事があります。それは行政に対して色々と働きかけたり、物を言っていく事はものすごく大事だと思いますが、それと同じくらい私達がどんどん外へ出ていく事がものすごく大事だと思います。私が大阪から帰ってきてから、気持ち一つでどこへでも行けるんだ、と確信したんです。もし何か問題が起きても、どうやってクリアしようかと考えていけば本当に行けない所なんかないんだと考えて、何をしたかというと、月に何回もこの車椅子で映画館に通うようにしてます。映画館というのはすごく階段が多くて、何度も人の手を借りなければ入れません。私の車椅子はベンチレーターを積んでいるので70kgもあるんです。男の人6人で持ち上げなければとてもあの階段を上がる事が出来ません。階段があるからと諦めるんじゃなくて、階段があっても行くんだ、多くの人に助けてもらって映画を観るんだということで、社会に私達の障害をアピールする事も大きな仕事なのではないかなぁと思っています。
 ですから皆さんも月に一度でも車椅子を何台か連ねて、映画館に行ったりして、自分達が楽しみながら社会の問題や街づくりの問題、交通権の事を考えたり、アピールしたりして、社会を変えるキッカケになればいいと思います。
 なんか、まとまりのない話しになりましたが、大阪行きの報告とさせていただきます。どうも有り難うございました。



司会:有り難うございました。ベンチレーターの問題だけではなく、
座位をとれない障害一般のこととして、私も車椅子ですので大変勉強
になりました。
   あと15分くらい時間がありますので会場の皆さんから感想や質問な
どを、お受けしたいと思います。



会場:映画へ行く時は一人で行くのですか。
佐藤:介助者の方が一人は付いてきてもらいます。でも、6人で持ち上げても
   らわなければいけないので、行った先で色々な人にお願いしています。
   通る人に声を掛けてお願いしますが、ほとんどの人が快く手伝ってくれ
   ます。たまに断る方は、ちょっと急いでいますので、という方です。

会場:私の場合は電動車椅子なので、どうかなと思うんですけど。
佐藤:電動は何kg位あるんでしょうか。(60kgです) そうですか、で
   も絶対大丈夫だと思いますよ。今度是非一緒に行きましょう。

会場:佐藤さんの勇気に感激しています。車椅子の場合、診断書は出さないん
   ですけど、一応障害面の事を聞かれます。私は言いたくないと、いいま
   すけど。佐藤:そうですよね)
   大阪へ行かれて、何か楽しかったこと、、いい男がいたとか、、(笑い)
   聞かせてください。

佐藤:大阪、、とっても良かったです。道頓堀の方へ出たんですけど、タコ焼
   きを食べました。とても美味しかったです。ナンパ橋といわれる所があ
   ると聞いてそこに立ってみたかったんですけど、皆に止められて行けま
   せんでした。でも、また行けたら、行きたいと思います。
会場:佐藤さんの「アナザボイス」でいつも力づけられています。私達も色々
   と要求しているんですけと、色々な会場で体験報告をどんどん続けて、
   私達が楽しく歩ける街にするために頑張って下さい。どうも有り難うご
   ざいました。

会場:お使いのベンチレーターは普通の空気を使うのですか。酸素ではないの
   ですか。
佐藤:私はルーム・エアといいまして、この部屋の空気を綺麗にして使ってい
   ます。酸素を使っている人もいますし、私も酸素が必要になるかもしれ
   ません。酸素の場合は危険物ということで、また取り扱いが大変で、問
   題が出てくると思います。

会場:私の知人でオーストラリアへ行くときにカンタス航空でやはり診断書を
   求められました。各会社の考え方なのかと思いますけど、、、
佐藤:診断書を必要とする基準が問題なんだと思います。対象とされる方とい
   う項目の中に、顔にひどい火傷を負っていたり、傷があって相手を不快
   にさせる人、というのがあって、すごい差別的だなって、怒りまくった
   んですけど、顔に傷がなくても不快にさせる人っていますよね、、(会
   場爆笑)。だから、そういう事が平然と書かれている診断書って一体な
   んだんだろうって今回すごく思いました。

会場:先日、NHKのインタビューで将来の夢として大雪山に登りたいと言っ
   ていましたね。その事を話して下さい。
佐藤:先程話した、尼崎の平本 歩ちゃんが、昨年人工呼吸器をつけたままで
   登山をしたんです。乗鞍岳らしいんですけど。ベンチレーターをつけて
   車椅子では登山が出来ないのなら、どうしたら登れるのかと発想を変え
   たそうです。すごいと思いました。それで特注の担架を作って、それに
   乗ってベンチレーターのバッテリーは別の人が背負って登る事にしたそ
   うです。今年は8月頃にベンチレーターをつけた子供達8名、立山とい
   う山があるそうですけど、その立山に地元の登山家の人達と一緒に登る
   という事です。
   私はそれを聞いて、とてもたまらなくなって、私も登山をしようと思っ
   たわけです。担架を特注して、来年皆さんのお力を借りて旭日岳に登り
   たい、テントを張って皆さんと一緒にお花畑でお弁当を食べられたらな
   ぁと思いますので、宜しくお願いします。



 最後に、前回のレポートでお知らせした「報告会」のPRをされて、終わりました。


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