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第1章 災害に備えて

 豪雨、豪雪、洪水、地震、津波、噴火など、災害が発生した場合には、多くの生命と財産が失われることとなります。これらの災害に備えた心構えとして、まず各自が自分の身を守るという姿勢が大切です。
 北海道南西沖地震災害や阪神・淡路大震災などの経験から、大規模な災害が発生してから復興が進むまでに、次のような過程を経ると考えられます。


@ 災客発生がら約3日後までの混乱期

 大規模な災害が発生した場合、避難所などの安全な場所にいかに待避できるか、また、けが人の救出、行方不明者の捜索など、まず、生命の確保が最優先の課題となります。
 この時期は、水道や電気、ガスなどのライフラインの寸断、交通、通信網の寸断や混乱など、社会・経済システムすべてが混乱している時期です。さらに、阪神・淡路大震災のように、行政機関などが自ら被災し、事態の把握に時間を要することも想定されます。
 このようなことから、災害発生後、3日間程度は、住民自らが相互の協力のもとに、災害に対処していかなけれぱならないことを想定しておく必要があります。
 このため、住民一人ひとりが平常時から3日分程度の食料や水などを備蓄しておくことが望まれます。さらに、それらをすぐに持ち出せるよう、ひとまとめにして手の届くところに置いておくことが必要です。これらの点については、市町村においてもあらゆる機会を通して住民に対しての普及啓発に努めることが必要です。
 このように、災害が起きた場合でも冷静に行動できるよう日頃から心がけるとともに、避難訓練などを通して防災意識を身につけることが大切です。

A 約3日後から約1月後の一時的避難生活期

 この時期は、多くの人たちが避難所などへ避難しており、これらの一時的な避難生活の支援はもとより、自宅等で生活している人たちについても、同様に支援していく必要があります。
 また、時間の経過とともに、今後の生活を始めるための対策が必要となってくるため、被災者の意向を把握しながら、生活資金や住宅などの対策を早急に進める必要があります。

B 約1月後以降の復旧期

 応急仮設住宅入居者など、一時的な生活を余儀なくされている人たちが、一日も早く新たな生活を始められるよう支援するとともに、すでに自宅などに戻った人たちについても支援していく必要があります。
 各期を通じて重要なことは、被災者に対する正確な情報の伝達です。災害発生直後から、被災者は親族の安否、財産の喪失などきわめて不安な状況にあり、今なにが起こっているのか、行政がどのような対策を講じているのかなど、情報を逐一正確に伝える必要があります。
 特に、今後の生活を左右するさまざまな情報について、得てして根拠のないうわさなどが流れることにより混乱が生じやすいので、被災者への十分な周知が必要です。
 一方、市町村など関係機関においては、災害に備えたさまざまな取組みを行っていますが、その中でも特に障害者や高齢者など自力での避難が困難な人たちが安全に避難できるような体制をそれぞれの役割などを勘案しながら整えておくことが重要となります。このマニユアルでは、社会的にハンディキャツプがあることから、災害発生時に配慮を必要する人たちを「災害弱者」と位置づけることとします。
 具体的には、次のような方々が考えられますが、このような災害弱者に対しては、日頃から生活実態を把握しておくとともに、特に、あらゆる場合を想定した情報伝達方法や避難誘導体制を整えておくことが必要であり、介護を要する程度や障害種別などに応じたきめ細かな支援対策の検討が必要となります。
 ・ 病弱・虚弱、介護を要する高齢者
 ・ 身体障害者
 ・ 知的障害者
 ・ 精神障害者
 ・ 難病患者
 ・ 乳幼児・妊産婦
 ・ 言語・生活習慣・防災意識の異なる外国人  など

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 1 平常時からの災害弱者の把握
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@地域における支援体制づくり

 災害発生直後から、住民は不安な気持ちを抱きながら最奇りの避難所に避難します。そのような混乱の中で、災害弱者が避難するときには、周りの人たちの協力がなければ迅速な避難が困難となります。
 災害が発生した場合に安全・迅速に避難するため、まず災害弱者自らが普段から地域の住民との交流を深め、非常時に際して避難誘導などを依頼できるような関係を築いておくことが必要です。
 また、市町村は、避難場所や援助を要請する際の連絡先を確認することができるよう、地域におけるさまざまな活動や障害者団体、老人クラブなどの関係団体を通じて災害弱者に周知しておく必要があります。
 それと同時に、地域においても周囲の人たちが日常的な見守りや声かけを行うなど、地域コミユニティの形成に努めることが必要となります。

A災害弱者の名簿の作成

 市町村は、日常行っている高齢者や障害者などへの保健医療福祉サービスの提供や相談、民生委員・児童委員をはじめとする各種相談員や町内会(自治会)などの地域活動を通じて災害弱者の生活実態や世帯構成等を把握し、これをもとに各簿一牟作。成して。おくことが必要です。
 さらに、福祉などの関係団体の協力を得て、団体加入者の一覧と照らし合わせることなどにより、名簿への登載漏れがないようにします。このことにより、災害発生時には、安否確認や必要な援助の提供が迅速に行われるようにします。
 また、これらの名簿の内容については定期的に確認を行い、常に最新の状況がわかるようにし、非常時に混乱を招かないよう留意する必要があります。
 市町村の規模によっては、日常の保健医療福祉サービスの提供などを通してだけでは、災害弱者の状況を把握することが困難な場合もあると考えられます。このため、災害弱者自らの申し出によりリストアップするなど、名簿作成に当たっては、さまざまな方法により行うことが必要です。
 なお、名簿の作成・管理に当たっては、災害弱者のプライバシーについて十分配慮することが必要になります。

B 保健医療関係機関との連絡体制

 災害弱者は被災時といえども継続した医療サービスの提供などが必要となる場合(例えば、人工透析や投薬など)が多いので、市町村はそれらの人たちの状況についても十分把握しておくとともに、緊急時におけ医療機関などの関係機関との連絡体制について、あらかじめ決めておくことが大切です。

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 2 情報伝達体制の整備
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 災害が発生した場合、被災者にとって、被害の状況や安全な避難場所などに関する情報が重要となります。しかし、災害発生直後は通信手段が寸断され、正確な情報伝達が困難な状況も想定され、このことにより、被災者がパニックに陥ることにもなりかねません。このような事態を避けるためには、行政機関が迅速かつ正確な情報を提供することが必要です。
 このため、市町村は、防災放送、広報車両の活用やマスコミの協力などによる情報提供など、通常の伝達手段だけに頼ることなく、複数のルートを確保しておくことが重要です。

@ 災害弱者への情報伝達

 特に、市町村は、視聴覚障害者などの災害弱者には惰報が伝わりにくいので、日頃から、あらゆる場面を想定した伝達方法について検討するとともに、障害者団体などの関係団体や消防などの関係機関と連携した情報伝達体制を確立しておく必要があります。
 また、迅速かつ正確に情報を伝達するため、各関係機関との連携により情報を集約する体制を整えておくことが大切です。

A 社会福祉施設などの連絡体制

 さらに、災害弱者を抱えている社会福祉施設や医療機関などにおいては、施設が大きな被害にあった場合に、地域における応援のみでは対応できないことも想定されることから、他の社会福祉施設などからの職員派遣や、被害を受けた施設の入所者の一時受入れ、あるいは避難所に避難した災害弱者を受け入れる場合に備え、これらの施設相互の緊急時における連絡体制をあらかじめ整備しておくことが必要です。

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 3 避難誘導体制の整備
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@ 避難所の指定及び周知

 災害が発生した場合、住民を迅速に安全な場所へ避難させることが必要です。
 このため、市町村が避難所を確保する際には、大規模な災害による被害を想定し必要な数の避難所をあらかじめ指定しておくとともに、どの地区の住民がどの避難所に避難するのかを明確にし、住民に知らせておくことが必要です。この場合、災害弱者に対する周知の方法について、例えば、視覚障害者に対しては点字広報を行うなど、十分配慮することが必要です。さらに、避難場所の周知とともに、災筈発生時に自力で避難できない場合に災害弱者が支援を求めることができる非常時の連絡先を、併せて周知しておくことが重要です。
 また、避難所の指定については、できるだけ強固な施設を選定し、避難所であることを明示しておくとともに、災害弱者の利用にも配慮し、物理的障害の除去(バリアフリー化)された施設を避難所とするにとが必要です。また、物理的障害の除去(バリアフリー化)されていない場合には、障害者用のトイレや段差を解消するためのスロープを整備することなども必要となります。さらに、車いす、簡易ベッド、文宇放送対応テレビなども備え付けておくことが望まれます。

A 災害弱者の避難誘導

 地域住民は、指定避難所の場所や経路を日常の地域活動の中で、確認するとともに、災害が発生した際に災害弱者が近隣にいる場合、それらの人たちをどのように避難誘導するか、それぞれの地域における自主防災組織による避難訓練などの活動を通じて普段から認識しておくことが必要です。
 また、市町村は、あらかじめ指定した避難所に避難しているかどうかの確認が迅速にできるよう、避難が予定されている人たちの名簿を用意しておくとともに、避難していない場合の安否確認の方法についても併せて検討しておくことが必要です。

B 社会福祉施設などにおける対応

 社会福祉施設などには、多くの災害弱者が入所・利用していることから、日頃からの避難訓練は特に重要です。また、災害時における入所者や利用者の避難誘導に係る職員の役割分担など、万が一に備えた体制整備も必要となります。さらに。普段は在宅で生活している人たちを、災害時には緊急に受け入れなければならない事態も予想されます。このような事態に備え、地域における社会福祉施設などの防災上の位置づけなどを明確にしておくことが必要です。
 また、市町村においては、避難所生活を送ることが困難な災害弱者が、一時的とは言え安心して生活できるよう、社会福祉施設、福祉センターやコミユニティセンターなどをあらかじめ指定し、避難できる仕組みについても検討する必要があります。

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 4 広域的な支接体制の整備
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 災害発生時には、多くの住民はもとより地方公共団体の職員自身も被災者となる可能性があります。道は、これまでも災害発生時に職員の派遣を行ってきていますが、被害が大きい場合は他の市町村からの職員派遺も考慮しなければなりません。このため、周辺の市町村を中心とした広域ブロツク単位での災害援助協定を締結するなど、広域的な支援体制や支援要請の際のルールを明確にしておくことが必要です。
 なお、道においては、平成7年10月31日に「大規模災害時の北海道・東北8道県相互応援に関する協定」を、平成8年7月18日に「全国都道府県における災害時の広域応援に関する協定」をそれぞれ締結しているほか、平成9年11月5日に道内全市町村との間で「災害時における北海道及び市町村相互の応援に関する協定」を締結しており、道内はもとより全国的に災筈時に相互応援することとしています。

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 5 社会福祉施設など関係概関どの連携体制の整備
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 災害は、社会福祉施設などにも大きな被害をもたらすこととなります。そのような事態に備え、社会福祉施設などは災害時における物資や職員の相互応援・協力ができるよう近隣の施設同士、あるいは広域の施設間で、あらかじめ連携体制を整備しておくことが必要です。
 災害時に被害が比較的少ない施設などにおいては、隣接する他の施設や、日常は在宅で生活しているものの被災したために避難所に避難した災害弱者をできる限り受け入れるようにし、それが困難な場合は、市町村などの調整により他の施設への受入れを依頼するほか、職員の応援派遣を行うなど迅速な対応に努める必要があります。
 一方、市町村においても、社会福祉施設などの入所者について、より広域的な対応が必要な場合には、道や社会福祉協議会などの関係団体の協力を得て、受入れ可能な施設に関する情報を入手し施設に提供するなどの方法により、災害弱者を早期に他の施設に入所させることができるよう、十分連携することが必要です。

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 6 冬期間における災害対策
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 北海道の冬は、積雪寒冷であり、半年もの間、雪に閉ざされることとなります。災害はそのような季節に発生する可能性があります。
 阪神・淡路大震災は平成7年1月17日に発生しましたが、本州といえども寒さが厳しく、被災者はその寒さに耐えながら避難生活を送っていました。本道の場合は、気候条件がさらに厳しく、積雪のために思うように避難できなくなることは十分に考えられます。特に、災害弱者にとっては、日常の生活においても自力で除排雪することが困難であるため、地域の人たちの協力などにより、万が一の場合に備え、避難誘導がスムーズに行えるよう地域の中で役割を明らかにしておくなど、きめ細かな配慮が必要です。
 このため、市町村においても、地域住民やボランティアの協力を得て、ひとり暮らしの高齢者や障害者の家の除排雪を行う施策を実施するよう努めることが重要です。
 また、指定避難所にはあらかじめ毛布や暖房器具などを備えておくなど、避難所での生活に支障がないようにしておく必要があります。
 このように、災害発生時においても、積雪寒冷な本道の地域特性に対応した避難誘導ができるよう十分配慮することが必要です。

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 7 通難訓練の実施
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 災害が発生したときに冷静に行動するためには、普段からの心がけが要です。
 このため、冬期間における災害の発生など、さまざまな場面を想定した避難訓練を定期的に実施し、普段から地域住民に防災意識を持ってもらうように努めることが必要です。
 市町村など公共的な機関においては定期的に避難訓練を実施しており、職員などは避難方法などについて熟知していると思われますが、地域住民についても、近年大きな災害が頻発していることから、防災についての関心が高くなってきています。こうした防災意識をさらに高めるため、市町村においては、多くの地域住民の参加のもと、避難訓練を実施する例も増えてきています。
 災害が発生した直後においては、それぞれの地域住民が自力で避難することが必要となることから、市町村は、より地域に密着した訓練が行われるよう、さまざまな工夫を凝らすとともに、災害弱者も一緒に参加する形で実施することが望まれます。


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