交通権レポート第4回
’93年度総会の後に行われた、ハンディキャップ交通研究家・高森 衛氏による講演の要約です。
講演に先立ち、協議会の曽我会長より講師・高森氏の紹介がありました。
「高森さんは昭和13年青森県五所川原市に生まれ、2才の時両親とともに美唄へ移住されました。美唄工業学校卒業後、北海道開発局札幌開発建設部に就職。昭和43年春、障害者となられる(障害4級)。同年4月、道開発局土木試験場道路研究室で交通工学を研究、現在に至っております。障害者や老人などの交通を考えると言うような本などを出版されています。」
「生活圏の拡大と移動時間の社会的費用を考える。」
1993.5.23
−−札幌市の新福祉のまちづくり環境整備要綱の問題点−−
高森 衛
第1章
1.全国の都道府県の福祉のまちづくり環境整備要綱制定状況
北海道 11自治体(北海道、札幌市、帯広市、釧路市、函館市、旭川市、室蘭市苫小牧市、北見市、網走市、恵庭市)青森1、秋田1、岩手1、福島2、山形2、宮城1、群馬1、茨城1、埼玉4、千葉3、東京26、神奈川7、新潟3、富山2、福井2、長野4、岐阜5、静岡5愛知3、三重2、滋賀2、大阪11、京都3、兵庫11、沖縄5など、、、、1993年5月現在 計160都道s(高森の調査)
○この内「条例」制定は、神戸市(S.53)、加古川市(S.58 コミュニケーションの条例)、兵庫県、大阪府(H.4)
大阪府は(H.4.10)「福祉のまちづくり条例」の中で建築物、公共施設、道路公園、駐車場、公共交通機関(駅、バスターミナル、バス・電車の車両を含むの整備を規定している。 一昨年より、既に4路線でリフト付きバスを走らせています。
今年3月の東京都の交通局への取材で、都でも4つの路線でリフト付きバス、スロープ付きバスを運行していて、今年は6台増やして6路線に走らせるということでした。スロープは手動の引き出し式です。リフトは運転手が降りて手で操作するもので、今後運転席から操作できるものにしてゆきたいと考えいるそうです。
2.札幌市の、新まちづくり環境整備要綱の問題点
1)要綱は「条例」と違い、強制力や罰則、予算の裏付け、がない。立入り検査などが出来ず、指導・勧告のみ。
2)建築物
☆ トイレ・・良くなったのはトイレで、ペーパーホルダーが、左右両方から使えるようになったこと。洗浄器、便座の暖房を明確にうたっていないのが問題。
☆ 理容・美容院、銭湯20台に1台、兵庫県は50台に1台。
* 公共建築物には必ず1台以上の駐車場を、、。現在道警が発行する「駐車禁止指定除外車」は、札幌市で約5、200台。50万台(タクシーを含む)の1%、少なすぎる
☆ エレベーター・エスカレーター・・・公共建築物には2階建てであっても設 置すべき。また、建築物の床の滑りやすさについて、使用する床材の具体的な摩擦係数 などの数値で示した方が良いのではないか。
3.公共交通機関の問題点
1)駅やバスターミナル、タクシー乗り場を対象にしているが、一番肝心なバス車両、地下鉄車両、電車車両、タクシー車両がそっくり抜けている。
● 例として、、、
バスの低床化を図る・・・ 東京都、立川市、稲城市、中野区、台東区、名古屋市、佐賀県、山形県など
バス・電光表示内板・・・東京都、立川市、稲城市、中野区、台東区、名古屋市、
リフト・スロープ付きバス・・・導入について福岡市、佐賀県が触れている。
地下鉄・鉄道車両の車椅子固定装置・・・東京都、稲城市、中野区、立川市、山形県、台東区、和歌山県、名古屋市、福岡市、佐賀県、
次停車駅の表示・・・東京都、稲城市、中野区、立川市、山形県、台東区、名古屋市、福岡市
長距離列車に車椅子用トイレを・・・山形県
☆立川市では立川駅にエレベーターを設置するために平成4年から7年を目標に初年度3億5千2百万円を計上。
4.道路
☆良くなった所 歩道の除雪幅を2m以上確保する。点字ブロックのカラーは原則として黄色とする。路面の滑りについては触れていないが、、、良くなってきている。
● 例えば、養護学校近くの排水溝の蓋の隙間を非常に細かくしてある。普通は25mm以下となっているが、ここでは9mmにしてある。車椅子のキャスターの幅は、20から22mm位で、この隙間に嵌まらないようになっている。
★問題点 立体横断施設(歩道橋、地下歩道)出来るだけスロープに、歩道橋の階段は避けて、エレベーターまたはエスカレーターが望ましい。・・・佐賀県、名古屋市階段入口の明るさも、出来るだけ明るくするという表現に止まっているが、入口は100ルクス以上、通路は50ルクス以上という規定があるので、きちんと打ち出すべきです。
● 川崎市で、平成5年3月エレベーター4台付きの歩道橋を完成。自転車スロープも付いている。安全のための監視用カメラ等もついていて、当初予算の17億円が24億円もかかった。
第2章
1.北海道の福祉タクシー助成制度と東京都の比較
道内の市町村で福祉タクシー制度を実施しているのは、212市町村のうち、104市町村である平成3年度、一人当たり平均、年額14、412円、最小値3、000円最大値は72、000円である。これに対して、東京都の50区・市では、一人当たり平均、年額38、036円、最小値13、000円、最大値115、520円と平均で2.6倍となっている。
2.移動時間の社会的費用
1960年より5年毎に調査しているNHKの「国民生活時間調査」がある。10歳以上の男女の1日の生活行動時間、食事、睡眠、身の回りの用事など一切を調べている。
北海道と大都市圏の年平均移動時間の比較
移 動 時 間 年間移動時間 45年間の社会
(通勤)(その他の移動) 計 活動で
北海道 51分 61分 112分 40,880分 1,260日
*681.3時間(28日) 3年165日
東京圏 90分 167分 167分 60、955分 1,903日
*1,016時間(42.3日) 5年 78日
*北海道との差し引きで643日、1年7ケ月、東京圏に住む人より得をしていることになる。
この時間を91年価格で社会費用として試算すると
363兆円×124、043千人(91年の人口:124、043千人)
―――――――――― =24.3円/分 (91年の国民所得:363兆円)
2、007×60 (91年の年間労働時間:2、007時間)
東京圏と北海道の差引額
1年間で (60、955−40、880)×24.3=487,822円
45年間で 487,822×45=21,952,012円
* 北海道に住んでいる人は東京に比べ、
☆移動時間で1年7ヵ月の余裕時間を持つことになり、その分を他の活動に振り向けることが可能である。(実質的寿命が長いことになる)
☆時間の社会的費用として、約2千2百万円の恩恵を受けている。
3.移動制約者の時間的損失
わが国の文献で健常者と移動制約者の移動時間に関して比較した例はない。高森が1984年に札幌市内で、徒歩、バス、地下鉄、延長6.4kmのコースで高齢者、車椅子、視覚障害者、肢体不自由者の所要時間を比較したことがある。この例で移動制約者は 健常者の1.6倍という記録がある。
この例で前節の手法で移動制約者の損失を計算すると
1年間の時間損失 407時間=約17日 社会的費用損失 594、256円
実際的社会活動を45年間と仮定すると 時間損失 764日
社会的費用損失 2千6百74万円
北海道の1人当たりタクシー助成額、1万4千円 移動制約者の社会的損失額
タクシー助成事業の他に福祉バスの運行(リフト付き)
センター送迎・・・千代田区、中央区、港区など23区が実施
リフト付きタクシー運行・・・千代田区、中央区、港区など9区、7市が実施
リフト付き自動車の貸し出し・・・9区、2市
自動車ガソリンの補助・・・現物給油及び現金の給付、17区、25市が実施
これらの制度の違いから、北海道は相当遅れていると感じるが、これらの事が行われていると言う事を知らないから、要求もしてこなかったということでもある。
お金は働くことにより得られるが、時間は再生産できない。この社会的不利を交通計画の分野ばかりでなく、国民の知恵を集めて学際的に研究していく必要がある。
以上で高森氏の講演は終わります。
この後、東京の「福祉のまちづくり」のVTR鑑賞。質疑が行われた。
<追記>
「福祉タクシー利用券は紙きれ?』
“稼働手控えるタクシー会社”人手不足、採算理由に「専門の搬送業者には使えず」 札幌
福祉タクシーチケット使えません−。札幌市が足などが不自由な重度身体障害者に無料配付している「福祉タクシー利用券」が実際には活用ができず。利用者の不満が高まっている。一般タクシー会社が効率の上がらない身障者向けの福祉タクシーの稼働を、人手不足や採算性を理由に手控えているため。身障者はやむなく患者らを専門に運ぶ搬送業者に頼っているが、これらの業者には利用券が使えず、「これでは何のための福祉チケットか」と制度を疑問視する声もある。
利用券の制度は昭和56年度にスタート。1年間に48枚つづり1冊をはいふしてる。券1枚で小型か中型タクシーの基本料金(490円、500円)が無料になる。同市によると、平成3年度は7,464人に配布。小型タクシーで換算すると約1億4百万円で、利用率は60%。札幌乗用自動車協会に加盟しているハイヤー、タクシー会社56社のうち4社が、車椅子ごと乗せられるワゴン車の「福祉タクシー」を各1台所有しているが、4年度は延べ210回しか使われていない。福祉タクシーを持つある会社は「人手不足で普通の営業車ですら運転手が足りないいつ利用されるか分からない福祉タクシーのために、運転手を待機させておけない。予約申し込みがあっても、断るケースもある」と、実情を明かす。
利用実態は病院への往復が大半で、走行距離が短く、あまりもうからないのも大きな要因という。このため、身障者の多くが、同市内に3社ある患者などを専門に運ぶ民間の搬送業している。しかし、同市は福祉券の利用対象を、小型と中型車に限定しているため、これらの民間業者の大型搬送車には使えない。同市障害福祉課は「専門の搬送業者の車にも福祉券が利用できるようにしてほしいという声は聞いているが、福祉行政全般にかかわる問題でもあり、改善には時間がかかる」としている。福祉タクシーでないと乗ることができない、同市中央区に住む男性(64)は「券は2年間で1枚も使っていない。病院に週1回通っているが、身障者専門のタクシー代が月数万円かかり、負担が大きい。専門業者にも使えるようにしてほしい」と切実に訴えている。
北海道新聞 1993年6月8日(火曜日)夕刊
社会面に写真2枚入りで、かなり大きく扱われていました。
さて、東京都の福祉政策のPRともいえるVTRを観たあと、参加者の質問や感想が述べられた。
Q:VTRでは、肝心の電車の乗降場面がはっきりしなかったが、段差はどのくらいか?
A:一応2cmとなっている。
東京都のリフト付き、スロープ付きバスの運行に付いて取材したが、乗降に時間が掛かるため、ラッシュ時には渋滞を招くので、片側2車線以上ある広い道路でのみ走らせている。乗客からの不満は、予め車内アナウンスで理解を求めているので、今のところない。とのことでした。
札幌は幸い道路が広いので走らせ易いのでは、、、、。お金をかけて出来ることならやるべきです。お金をかけても出来ない事がある のだから。
参加者:穂別町から来ました。講演とVTRを観ての感想を。
新千歳からJRで、札幌まで。駅からはタクシーで来ましたが、新千歳でJRのホームまでのエレベーターの位置を聞いて行ったが、はっきりせずに随分時間がかかりました。
電車に乗る時、この列車は旭川行きで札幌には3分しか停車しないので、次の列車にしたほうがいいのでは、と言われそれに従ったところが実際に乗ってみると、乗る時にはスロープが必要なのだが、降りる時にはたった3秒で降りられました。知らないことで一列車遅れてしまった、と笑いました。
一緒の人は20数年ぶりで列車の旅をしたと、大感激でした。保健婦をしていて、今、各町では福祉・医療などの計画が大詰めを迎えいて、予算付けをしながら計画を作っていく為に、医療・福祉関係者はしっかりした考えを持たなくてはならない。
排水溝の蓋の隙間まで考え道路作りなど、しっかりした計画をつくる行政にしていく事を希望しています。
*穂別町では今年キャンプ場に障害者用のバンガローが出来ました。是非お出かけ下さい。
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